Yuichi_Inoue_portrait
 

高度経済成長を遂げる戦後日本に於いて、井上有一は、
書の「解放」「革新」「破壊」そして文化国家の創造を目指し愚直に生き抜いた。

かつては
祖国に血を捧げんとした
純真にして情熱溢るる若人よ
今こそ
文化の建設ニ
東洋芸術の興隆に
真の情熱をぶっつけて
奮起すべきだ
— 井上有一

戦後日本を代表する書家である井上有一は、1950年代からサンパウロビエンナーレへの出展を始め、ジャクソン・ポロック、ハンス・アルトゥングらをはじめとする西洋の抽象表現主義の作家と呼応するように、国際的な評価を高めていきました。その後ドクメンタ等の重要な国際展に次々と出展し、アーティストとして、また日本の近代書家の代表選手として、世界のアート界で広く認知されるようになりました。

井上有一は森田子龍ら5人の同志たちと共に、前近代的な既成書壇と決別すべく、墨人会を結成しました。書を芸術として確立する為に、あらゆる因習から書を解放することが現代書芸術の第一歩であるとし、各人が書家ではなく裸の人げに立ち返り、書による、書の運動を世界に提示することこそ自らの使命であると、制作に励んでいきます。

エナメルをケント紙にデタラメに描きつけた文字性のない「メチャクチャデタラメ」な非文字作品の制作を経て、井上有一は文字による表現に回帰していきます。

なにものにもとらわれない自由などというものは本来どこにもないし、どこにもないということは即どこにでもあるということであって、なにもそのために漢字という欧米にはない素晴らしいものを捨てることはないということに気づくようになりました。文字を捨てることによって、文字を書くことの素晴らしさがわかったわけであります。
— 『井上有一』海上雅臣著 ミネルヴァ書房